
家族・親族が優先されるのはなぜ
病状の説明や、病院・介護施設での面会について、法律では直接的に定めたものはありません。
しかし、救急・医療・介護現場では、本人の指定がない場合、まずは家族・親族に緊急連絡をこころみます。これは民法の家族に関する規定(第752条、第730条、第877条など)をもとに、慣習として行われていると考えられます。
法律やガイドラインは「本人の同意」を重視
救急・医療・介護の現場では、患者・利用者の個人情報・プライバシーの保護と自己決定を大切にしています。そこで、個人情報保護法やガイドラインでは、どのように決められているかを確認しましょう。
個人情報保護法
個人情報保護法第27条から、あらかじめ本人の同意を得ている場合は、個人情報を第三者に提供することができると解釈できます。
第27条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。(太字筆者)
医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス
厚生労働省は、このガイドラインで、もうすこし詳しく指針を示しています。
法においては、個人データを第三者提供する場合には、あらかじめ本人の同意を得ることを原則としている。一方、病態によっては、治療等を進めるに当たり、本人だけでなく家族等の同意を得る必要がある場合もある。家族等への病状説明については、「患者(利用者)への医療(介護)の提供に必要な利用目的」(Ⅳ3.(1)参照)と考えられるが、本人以外の者に病状説明を行う場合は、本人に対し、あらかじめ病状説明を行う家族等の対象者を確認し、同意を得ることが望ましい。この際、本人から申出がある場合には、治療の実施等に支障を生じない範囲において、現実に患者(利用者)の世話をしている親族及びこれに準ずる者を説明を行う対象に加えたり、説明を行う対象を家族の特定の人に限定するなどの取扱いとすることができる。(太字筆者)
出典:医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス P23-24(厚生労働省)
このように、本人の同意が得られれば、病状説明ができる対象を、家族だけではなく、実際に患者・利用者の世話をしている親族や、親族に準ずるひとも加えることができるとしています。
人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン
また、厚生労働省のガイドライン解説のなかで、つぎのように述べられています。
家族等とは、今後、単身世帯が増えることも想定し、本人が信頼を寄せ、人生の最終段階の本人を支える存在であるという趣旨ですから、法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含みますし、複数人存在することも考えられます。(太字筆者)
出典:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン 解説編 P5(厚生労働省)
このように、「家族等」とは本人が信頼を寄せ、人生の最終段階の本人を支える存在で、法的な家族・親族だけでなく、親しい友人などより広い範囲のひとであるとしています。
「本人の同意」を示すには
救急・医療機関や介護施設では、口頭や書面などによる意思表示で本人の同意を得ていると判断します。
このため「本人からの同意する旨の書面」を準備しておくことをおすすめします。この書面は、つぎのようなものが考えられます。
- 緊急連絡先カード
- 医療意思表示書
- パートナーシップ合意契約 など



医療に関する意思表示書(例)
住所
氏名
連絡先電話番号
1 私は、上記の者が「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(厚生労働省)記載の「家族等」に当たることをここに証明します。
2 私は、その通院・入院・手術時及び危篤時において、上記の者に対し、通常親族に認められる次の事項について、一切の権限を委任します。
(1)委任者への医療行為に関する説明・同意
(2)カルテ開示に関する同意
(3)治療方針決定への同意
3 私は、その通院・入院・手術時及び危篤時において、上記の者に対し、入院時の付添い、面会謝絶時の面会、手術同意書への署名等を含む通常親族に与えられる権利の行使につき、本人の最近親の親族に優先する権利を付与します。
年 月 日
住所
氏名(本人署名) 印
生年月日
パートナーシップ合意契約の医療条項(例)
第○条 甲及び乙は、そのいずれか一方が罹患し、病院において治療又は手術を受ける場合、他方に対して、治療等の場面に立ち会い、本人と共に、又は本人に代わって、医師らから、症状や治療の方針・見通し等に関する説明を受けることを予め委任する。
第○条 罹患した本人は、その通院・入院・手術時及び危篤時において、他方に対し、入院時の付添い、面会謝絶時の面会、手術同意書への署名等を含む通常親族に与えられる権利の行使につき、本人の最近親の親族に優先する権利を付与する。





念のため医療意思表示書も準備しておき、万一のときに病院や介護施設の人に読んでもらえるように備えておくとよいでしょう。
救急の場合
東京都内にお住まいのLGBTQ+カップルの方々は、東京都パートナーシップ宣誓制度の利用をおすすめします。
この制度を利用すると、証明書を提示すれば、パートナーが救急搬送されたときに、救急隊から搬送先に関する情報提供が受けられるようになります。
また、証明書を提示することで、パートナーとの面会が可能な医療機関リストを公表しています。



東京以外の道府県にお住まいの方も、お住まいの自治体にパートナーシップ宣誓制度がある場合は、どのようなことができるようになるのかを確認しておくことをおすすめします。




注意点
このような書面を用意していたとしても、法的な拘束力はありません。そのため、救急・医療機関や介護施設の判断で、家族・親族に連絡がいく可能性がある点に注意が必要です。


